「うちの子、凄い吠えるんです。どうすれば吠えなくなりますか?」
カウンセリングの現場で、非常に多くいただくご相談の一つです。
犬が吠える理由は、防衛本能だったり、不安だったり、あるいはコミュニケーションそのものだったり、原因はその子によって様々です。しかし、まず私たちが大前提として理解しなければならない事実があります。
そもそも、犬は「吠える動物」です。
何かの刺激に対して吠えて反応しているだけなので、その「反応そのもの」を完全に消し去ることは、不可能です。ですが、吠え「なくすること」はできなくても、飼い主の導きによって吠え「させなくすること」はできます。つまり、もし吠えたとしても、飼い主の声かけや指示で正しく止めることができる、ということです。
繰り返される「成功体験」という誤った学習
例えば、急にやってきた配達員に対して、犬が激しく吠え続けたとしましょう。当然ですが、配達員は用事が済めば必ずその場を立ち去ります。
しかし、吠え続けた犬の視点に立つと、ここには大きな誤解が生まれます。「自分が吠えたから、外敵を追い払うことができた」という成功体験です。
この一連の流れが繰り返されることで、犬は「吠えれば安全を守れる」と学習し、次からはさらに強く吠えるようになっていきます。多くの飼い主さんはこれを止めようとして、「ノー!」「静かにして!」と、その場しのぎの強いコマンド(指示)を出してしまいがちです。
「パワーによる支配」が招く攻撃性
普段から「指示と遂行の関係性」が丁寧に築かれていないにもかかわらず、人間にとって都合の悪い時だけ言うことを聞かせようと強い態度をとること。それは結果的に、力でねじ伏せる「パワーによる支配関係」を学習させていることになります。
そして、この支配関係を学んだ犬は、今度は自分が何かを主張したい時に、同じようにパワー(唸る、噛む、吠え立てる)で人間を支配し返そうとする態度を取るようになります。これこそが、人間社会において「攻撃的な犬」を生み出してしまう大きな理由の一つなのです。
力で押さえつけるアプローチは、より大きなしつけの破綻を招くだけです。では、パワーによる支配ではなく、愛犬にスムーズかつ穏やかに「ストップ」を伝えるには、日頃からどう接すればいいのでしょうか。
支配関係から脱却するための日常のルール
普段からの信頼関係がない状態で大声を出すと、犬にとっては「飼い主も一緒になって外敵に向かって吠えている(応援してくれている)」と勘違いするか、あるいは単に力による脅迫と受け止められます。どちらにせよ、根本的な解決にはならず、むしろ犬の興奮や恐怖心を煽る結果になります。
問題が起きた瞬間(吠えている最中)だけコントロールしようとするのをやめることです。大切なのは、何もない平穏な日常の中で「人間の出す明確な指示に従うと、安心できるし良いことがある」という基準を、一貫した行動で教えておくことです。この土台があって初めて、いざという時の「ストップ」が犬の心に届きます。
力比べを終わらせるコミュニケーション
愛犬の吠えを止めるために必要なのは、声の大きさでも、罰を与える力でもありません。人間側が「この場所の安全は私がコントロールしているから、君が戦う必要はない」という確固たるスタンスを、日々の小さな振る舞いの中で示し続けることです。
お互いにパワーで支配し合う関係を終わらせ、信頼という絆でつながるお散歩や家庭環境を作っていくこと。
次回(後編)では、このパワーの連鎖を断ち切り、愛犬にスムーズに「ストップ」を受け入れてもらうための、より具体的な日常のアプローチについて詳しくお話しします。
